リーマン多様体上の勾配の定義
リーマン多様体上で定義される grad f の動機がよくわからなかったのでいろいろ調べたら、以下の記事で説明されていたので、自分なりにまとめた。
定義
リーマン多様体 (M, g) 上の関数 f : M→ℝ に対して, 勾配 grad f は、任意の点 p∈M, v∈TpM に対して
〈(grad f)p, v〉p = vfp
を満たすものとして定義する。ここで、 〈•,•〉 は g が定める内積で、 vf は v 方向の方向微分。 写像としては、 grad f : M→TM; p↦(grad f)p∈TpM である。 *1ベクトル場 X に対して書くと、
〈grad f, X〉 = Xf
を満たすベクトル場が grad f である。
何故か
grad f(x) = ∑ (∂xif)ei
と定義された。この勾配というベクトルを特徴づける性質として、内積 (grad f)⋅v が v方向の方向微分になる。
これを、リーマン多様体上のリーマン計量で定義することにすればよい。
なお、ベクトル解析では、このユークリッド空間での定義を、微分演算子として形式的に ∇ := (∂xi)i⊤ のスカラ倍で grad f := ∇f と書く。
書き換え
スカラ関数 f の微分写像 dfp は、 TpM→Tℝ の線型写像だが、 ℝ の接空間は ℝ に同一視されるので、 dfp : TpM→ℝ で、 dfp(v) = vfp が成り立つ。(ベクトル場 X にたいしては df(X) = Xf)
dfp は一形式で、 TpM の双対空間 (余接空間) の元である, つまり dfp∈Tp*M。 TpM↔Tp*M の自然な同型写像が g で定まり、 dfp に対して (dfp)*∈TpM が対応する。よって、
〈grad f, v〉 = dfp(v) = 〈(dfp)*, v〉
となり、(grad f)p = (dfp)*
と書ける。本によってはこれを定義としている。局所座標では、
grad f = gij(∂if)∂j (= gij(∂jf)∂i) (総和規約)
次回予告
ヘシアンの定義はなぜあんなんなのか。
*1:こういう、始域によって終域が変わるものは、表現しづらいが、代数的位相幾何の言葉では、こういうベクトル場を「接束の切断」って表現している。